コイゴコロヒトツ+ヒトツ（23）

「三年で戻りますから、待ってて下さい、って言おうと思って呼び出したんですけど……やっぱ俺じゃだめですか」
「ちょ……、セーイチ、離し……」

　小さく身じろぐ陣内を石田は一層きつく抱き締める。

「何もしませんから、ちょっとだけ……」
「セーイチ……」

　甘えるように囁くその声があまりに切なく響いて、振りほどく事ができなくなった。
　かつては焦がれたこの腕の中。ようやくその腕が伸ばされたけれど。

　――今俺が守りたいと思うのは、セーイチじゃ、ない。それにセーイチには……

「そうだ、セーイチお前、奥さん……こんな事してちゃ駄目だろ……」

　我に返って、陣内は石田の胸元をぐい、と押した。素直にその腕が解かれ、息苦しさから解放される。

「そう、すね……。その節は陣内さんにはご馳走になったり……色々ありがとうございました」

　石田が、どこか寂しげに笑って小さく頭を下げた。

「話はそれだけだったら……出ようか」
「先に行ってて下さい。俺は……落ち着いてから戻ります」
「セーイチ……ありがとう。……ごめん」

　せっかく向けられた気持ち。でもどうしても応えることは、できない。

　石田に背を向けた陣内は、そのまま振り返らずに部屋を後にした。



　陣内はオフィスに戻るとすぐ坂崎の姿を探した。目が合った坂崎は、酷く傷付き思いつめた顔をして見えた。声を掛けたかったがまだ残る人の目が気になってそれもできずに、陣内はそのまま自席に着いた。そのタイミングを見計ったように帰り支度を整えた坂崎が立ち上がり、同じ島に残る同僚に挨拶をして帰って行った。



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