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ただ、それだけ。(13)

BL好きが書いた自作小説を短編・シリーズでぼちぼちアップしています。年下攻率高し。 18禁。
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 夜、自宅のベッドに一人寝転がって野田は小さく息を吐いた。妻の優子は父の具合が悪いと息子二人を連れてさして遠くない実家へ泊まりがけで戻っている。小さい子供を二人連れてでは返って迷惑では、という野田の意見には、それでもいるだけで父が喜ぶから、と優子は答えた。今日、妻のいない偶然を、野田は感謝にも似た気持ちで安堵した。

 昨夜の事を反芻する。したたかに酔ったが、記憶は鮮明にあった。


 ――穂積はどうして俺にあんな事を。

 実の弟である歩に好意を寄せられていたという過去を、初めて他人に話した。今まで己の中だけで燻っていた悔恨を、人から見たらどう映るのかを初めて知った。その相手が弟と同じ嗜好を持つ者だったのは、幸いだったのだろうか。

「気付いていれば、野田さんは弟さんに何をしてあげれたんですか」
「弟さんを受け入れる事ができたんですか」

 穂積にそう訊かれた。できるかできないかで答えるなら、できない、だろう。

 歩とは十一、歳が離れている。歩が生まれた時の事も勿論、よく覚えている。少し小さく生まれた歩を、本当に愛しいと思ったし、何より大切に思った。兄として守りたいと心から願い、またそうしてきたつもりだった。その弟と、夕べの穂積との行為のような事は、想像するに思考がそれを拒んだ。歩には恋人がいる。当然そういった行為にも至っているんだろう。歩にも肉欲のような物があるだろう事は理解はできる。けれども弟である歩とそれが、野田の中ではどうしても結び付かなかった。

 ――歩が俺に一番したくて、一番したくなかった事。

 これが、兄弟である事の禁忌というものなんだろうか。歩は、野田に何も言わなかった。恐らく歩の中の野田への気持ちが落ち着いて初めて、それを野田に打ち明ける事ができたんだろう。野田に何も告げないと決めた歩の選択は、まだ年端も行かなかったはずの歩が悩み考え抜いた結果だったんだろうという答えに思い至ると、不意に目が熱くなった。




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