穂積に、悟られてしまった。
たった一度の行為で、浅ましく穂積を欲しがるこの身体を。
ほんの少し触れられただけで、全身が震えた。自分の意思で動く事ができなくなって、穂積の指先に屈服した。
部屋に入るとすぐに腕を掴まれ、唇を奪われた。息も吐かさぬ荒々しさで与えられた口付けに、込み上げてきた官能の波に飲まれた。それだけで、目尻には涙が浮かんだ。
穂積の愛撫は一度目の甘さに加え、狂おしいほどの激しさで野田の官能を煽り立て、野田の羞恥心と背徳心はむしり取られた。
なけなしのタガを外されて、野田は穂積の下で声を嗄らしながら、自ら腰を揺らして貪欲なまでに快感を追い求めた。
それはまるで、愛し合う者たちの行為のようだった。自分の中に、こんな激しさが潜んでいた事を、野田は初めて知った。それはけれども驚きというよりむしろ、今まで己の中に密かに抱いていた正体の判らない何かを、やっと穂積の手によって暴かれた、そんな感じがしていた。
昨夜の穂積は、野田を責めるような言葉も、あるいは野田を宥めるような言葉も、口にする事はなかった。
――穂積はどうして俺を……?
あの手の性嗜好を持つ人種は、同性なら誰でも良いんだろうか。
その疑問に対する野田の知識の全ては、弟である歩だけだった。少なくとも歩は、そうではないだろう、と思う。でなければ野田の手によって引きはがされた相手の元へ、三年もの月日を経て戻って行くことなどないだろう。けれども穂積は。
――そして俺は……?
「どうしたの?」
「――え」
後からベッドに入ってきた妻の優子に声をかけられて我に返った。
「歩君?」
「え?」
「違うの」
「――ああ」
「そう」
それだけ言うと、優子は野田に背を向けて、本を読み始めた。
――淡々。
野田は、妻との関係はそう形容できると思っていた。付き合いは高校の同窓会からだった。きっかけは何だったかよく覚えていないが、初めて話したその日も会話の内容は歩の事ばかりだった記憶がある。それからなんとなく付き合いが続き、なんとなく時期がきたから結婚して、気が付いたら今に至っていた、という感じだった。彼女に熱い感情の昂ぶりのようなものを感じた事もなく、また彼女からもそれを求められはしなかった。喧嘩する事もなく、熱く求め合う事もなく。ただ穏やかで、しかしどこか味気無い日々を、ただ淡々と過ごしてきた。
その均衡が崩れる日も近い。
穂積を求める己の中の熱さに身を焦がし、そっと唇を噛む。野田は目を閉じて、己を取り巻く全てのものとその予感の重さを、眠りに落ちるまでずっと、天秤に掛けて揺らしていた。
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前回の誘いウケ的独り言に反応下さった皆様ありがとうございますた!
手探りで(ぇ)再開すwよろしければまたのお付き合いよろすくおながいしますm(_ _)m
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なけなしのタガを外されて、野田は穂積の下で声を嗄らしながら、自ら腰を揺らして貪欲なまでに快感を追い求めた。
それはまるで、愛し合う者たちの行為のようだった。自分の中に、こんな激しさが潜んでいた事を、野田は初めて知った。それはけれども驚きというよりむしろ、今まで己の中に密かに抱いていた正体の判らない何かを、やっと穂積の手によって暴かれた、そんな感じがしていた。
昨夜の穂積は、野田を責めるような言葉も、あるいは野田を宥めるような言葉も、口にする事はなかった。
――穂積はどうして俺を……?
あの手の性嗜好を持つ人種は、同性なら誰でも良いんだろうか。
その疑問に対する野田の知識の全ては、弟である歩だけだった。少なくとも歩は、そうではないだろう、と思う。でなければ野田の手によって引きはがされた相手の元へ、三年もの月日を経て戻って行くことなどないだろう。けれども穂積は。
――そして俺は……?
「どうしたの?」
「――え」
後からベッドに入ってきた妻の優子に声をかけられて我に返った。
「歩君?」
「え?」
「違うの」
「――ああ」
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――淡々。
野田は、妻との関係はそう形容できると思っていた。付き合いは高校の同窓会からだった。きっかけは何だったかよく覚えていないが、初めて話したその日も会話の内容は歩の事ばかりだった記憶がある。それからなんとなく付き合いが続き、なんとなく時期がきたから結婚して、気が付いたら今に至っていた、という感じだった。彼女に熱い感情の昂ぶりのようなものを感じた事もなく、また彼女からもそれを求められはしなかった。喧嘩する事もなく、熱く求め合う事もなく。ただ穏やかで、しかしどこか味気無い日々を、ただ淡々と過ごしてきた。
その均衡が崩れる日も近い。
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