にしがひがしに（10）

「……」
「……太一？」

　少し、荒くなった呼吸。木戸に声を返す事なく肩を上下させる太一に、木戸が僅かに心配そうに太一の名を呼んだ。

「今でも……」
「ん……？」
「充分お前なしでいれへんようになってんのに……こんな事俺に覚えさせてっ、お前に会えへん間、俺はどうしたらええねん……なんで……」
「太一……」

　己の暴走にやっと気付いたらしい木戸が、ようやく声を戻した。太一を宥めるように髪を撫で、声から察したのか、目元に浮かぶ太一の涙をそっと拭った。

「木戸のアホ……」
「ん……ごめん」

　太一を抱き締める木戸の腕の力が強くなる。項にはキス。それだけで本当は、もう全てを許したくなるけれど。

「アホ。嫌いや……」
「ごめんて、太一」

　今日の木戸は、やり過ぎた。気持ち良過ぎて辛いなんて、木戸に分かるだろうか。

「嫌や……」
「もうちょっとしたら、そっち戻るから」

　甘い言葉。木戸の声も甘い。身体の芯まで響いて太一に麻酔をかけるような声。ずっと側で感じていれたなら。

　いつでも会えると思いながら会わない一週間と、会いたいと思いながら会えない一週間では一週間の長さが違う。

　――これが、遠距離恋愛。

　辛い、と実感したら、また涙が出た。

「そんなん嘘や……」
「ほんまや。本配属、そっちになるはずやから。そしたら毎晩しよ」
「毎晩なんか無理やん……」
「一緒に住もうな太一」
「え……」
「お前かて、いつまでも実家に住んでんでもええねんやろ？」
「そやけど……」

　そんな事ができるなんて、考えてみた事がなかった。比較的近い実家。家を出て、木戸と一緒に。

「な、好きやで太一」
「ん……」

　一緒に。

　――一緒に住んだら。毎日木戸とキスできるんかな。俺ほんまは、それで充分やのに……。

　思いがけず舞い降りた話に思いを馳せ、太一は夢心地で目を閉じた。何度も落とされる木戸の唇を感じながら。




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