あの夏の日（４/５）（R18)

「ぁっ……、……、せんせ……」

　その言葉に愕然とする。

　村上が本当に求めているのもの。それは。

　――俺じゃない。分かってたけど、さすがに……。

　走るのは、胸の痛み。

　村上の項。上気する身体。美しくしなる背。村上を穿ち、啼かせているのは確かに自分なのに。

　ここにはない、村上の心。

　それでも。

　――この腕で村上を抱く事ができたこの瞬間に。満足しろよ俺――。

　慎治は村上の頬を伝う涙を拭い、彼を背後から抱き締めた。その首根に唇を寄せ、キツく吸い上げる。

「あ、ぁ、っ、イく、イっ――」

　慎治の腕の中で、村上が痙攣する。掌の中の村上もそれと同時に震え、村上は慎治の手の中でその精を吐いた。






　村上は実のところさほど経験がなかったのか、たった一度の行為で動けなくなる程に疲労した。まどろむ彼の身体を、濡らしたタオルで清めてやっていると、村上が薄く目を開けた。

「大丈夫か？　水飲む？」
「ん……、……いい。それより巽、……横にいて」

　村上がそっと、慎治の手を握った。

　小さく溜息を一つ吐いて村上の隣に横たわると、村上が甘えるように身体を寄せてきた。慎治の肌に顔を埋めて、くん、と匂いを嗅いだ。

「巽、先生と同じ匂いすんだよな……」

　吐息混じりに呟いて、村上はまた目を閉じた。






　村上の呼吸が規則的になったのを見計らって、慎治は身体を起こした。机の上から煙草を取って火を点ける。吐き出した煙が、部屋の空気に溶けてゆくのを眺めて、煙は一体どこへ消えるんだろう、とぼんやり思った。

　桑山と同じ煙草を吸っているのは、偶然じゃない。でもそれも、村上にとっては彼を思い起こさせる為のものでしかなかった。

　――どうか村上が幸せでいられるように。

　祈りながら、村上の髪を撫でた。




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歩と花火を見に行った『夏の夜の夢』とリンクしてます。
よろしければ併せてお読みくだちぃ(*´∀｀)

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