あの夏の日（５/５）

　夏休みに入って慎治は所謂その手の店の出入りを頻繁にし始め、気持ちのない相手と身体を重ねる事を日常のものと身体に覚え込ませてしまっていた。純粋で透明な涙を流した村上の傍らに立つと、己の体内に溜ってしまった澱のようなものが、酷く重い存在のように感じた。

　女の子だけのグループがいたらナンパしよう、と息巻いていた奴らが、カップルばかりの現状に悄然とし始めたのを村上と二人で笑いながら、二人は一段高くなった堤防の上に並んで腰を下ろした。そこは花火を座って見ることができる絶好の場所だった。次々上がる花火を、暫く二人で黙って見上げていた。

「――巽」
「んー？」
「先生、離婚した」

　その言葉で慎治は、空から村上に視線を向けた。

「その話が纏まるまで、俺と会えなかった、って」
「――そか」
「俺が卒業したら、一緒に住もうって、言ってくれた」

　――桑山も、やりゃできんじゃねーかよ。

　良かったな、と声にする代わりに、慎治は目を細めて小さく頷いた。

「巽、ありがと」
「――ん」

　花火の光で色を変える村上の表情は幸せに満ちて、慎治は村上が本当に綺麗だと思った。








　――あいつら、まだ続いてたんだな。……ほんとに、良かったな村上。

　あの時見た花火が、今目の前で咲く花火と重なる。あの時村上の幸せを心から祝福できた事。きっとそれは今に繋がっている。村上もきっと、やっと幸せになった俺を心から喜んでくれるだろう。

「慎治さん、……帰ろ？」

　ふと、歩が俺を過去から呼び戻した。

「おま何言って……今からフィナーレじゃねぇかよ」
「うん、分かってる。でも……帰ろうよ」

　想う相手に同じだけ想われる事の歓び。こんな泣きたくなるような幸せを知ってしまった今。もう、失いたくない。――絶対に。

「……そだな、帰るか」

　俺は笑って頷いた。




おしまい




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歩と花火を見に行った『夏の夜の夢』とリンクしてます。
よろしければ併せてお読みくだちぃ(*´∀｀)

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