陣内を先に通して資料室に入った坂崎は、後ろ手にゆっくりと、鍵をかけた。それでも静かな密室ではコトリとシリンダーが回る音が響く。陣内は振り返り、坂崎の見えない手元を見て、それから坂崎の言葉を待つように、無言で坂崎に視線を合わせた。
「陣内さん」
「ん……」
暗い衝動に駆られて陣内を連れて来たものの、何を言うべきか考えあぐね、口を開きかけて、結局何も言えずに坂崎はただ視線を彷徨わせた。
「陣内さん」
「ん……」
暗い衝動に駆られて陣内を連れて来たものの、何を言うべきか考えあぐね、口を開きかけて、結局何も言えずに坂崎はただ視線を彷徨わせた。
「坂崎」
そんな坂崎を目を細めて見つめていた陣内が、優しい手付きで坂崎の胸元に手のひらを置いた。
「陣内さん、俺……」
「……ん」
「この部屋、石田が……」
「坂崎、まだ気になるのか」
坂崎を見上げる陣内の目。困って揺れているかと思ったが、その濡れたような黒い瞳は真直ぐにじっと、坂崎を見上げていた。
「いえ、……普段は忘れてます。でも、さっき石田からメールがあったんですよね。……石田のことを思い出したり、この部屋の前通ったりすると時々。陣内さんは本当に俺で良いんだろうかと、……」
坂崎の言葉にじっと耳を傾ける陣内の瞳と目を合わせていられなくて、坂崎は最後には口ごもるように小声になって、そして目を伏せた。
「坂崎、……」
微笑を浮かべて、陣内は坂崎の両頬を包んだ。目が合うと、陣内はその笑みを深め、そして優しく唇を重ねた。
「俺は本当に、坂崎さえいてくれれば良いと思ってるよ」
「陣内さん……」
触れ合った唇の柔らかさに、胸が痛い程締め付けられる。
「坂崎はいつでも、俺に必要な時に、気持ちをくれてた」
「それは俺が、陣内さんを好きだったから……」
「ん……ずるい俺に、そうやって坂崎はずっと気持ちを注ぎ続けてくれた。俺もう坂崎なしじゃ、いられないよきっと」
ごく穏やかな陣内の口調は、坂崎に優しく言い聞かせるように。不安に小さくなりそうだった坂崎の心がゆったりと、凪いだ海に包み込まれて、そして広がってゆく。
坂崎はそっと、陣内を抱き締めた。
「陣内さん、俺は……陣内さんのそんなところが、堪らなく好きなんです」
穏やかな、海。
その印象は陣内に片恋を抱いていた頃から変わらない。
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「陣内さん、俺……」
「……ん」
「この部屋、石田が……」
「坂崎、まだ気になるのか」
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「いえ、……普段は忘れてます。でも、さっき石田からメールがあったんですよね。……石田のことを思い出したり、この部屋の前通ったりすると時々。陣内さんは本当に俺で良いんだろうかと、……」
坂崎の言葉にじっと耳を傾ける陣内の瞳と目を合わせていられなくて、坂崎は最後には口ごもるように小声になって、そして目を伏せた。
「坂崎、……」
微笑を浮かべて、陣内は坂崎の両頬を包んだ。目が合うと、陣内はその笑みを深め、そして優しく唇を重ねた。
「俺は本当に、坂崎さえいてくれれば良いと思ってるよ」
「陣内さん……」
触れ合った唇の柔らかさに、胸が痛い程締め付けられる。
「坂崎はいつでも、俺に必要な時に、気持ちをくれてた」
「それは俺が、陣内さんを好きだったから……」
「ん……ずるい俺に、そうやって坂崎はずっと気持ちを注ぎ続けてくれた。俺もう坂崎なしじゃ、いられないよきっと」
ごく穏やかな陣内の口調は、坂崎に優しく言い聞かせるように。不安に小さくなりそうだった坂崎の心がゆったりと、凪いだ海に包み込まれて、そして広がってゆく。
坂崎はそっと、陣内を抱き締めた。
「陣内さん、俺は……陣内さんのそんなところが、堪らなく好きなんです」
穏やかな、海。
その印象は陣内に片恋を抱いていた頃から変わらない。
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