Fly Me To The Moon（15）

「……ふーん」
「月と地球と太陽の何分の一かの相関模型があってこう……、太陽から光が出るようになってんの。それクルクル回したら月が満ちたり欠けたりするのが見れんだ」

　こんな感じ、とそれぞれの位置関係を、和大が小さく身振りで説明した。

　――月の満ち欠け。

　満月でいるのはほんのひと時で、気がつけばまた、どこかが欠けてる。月まで行けば、それはいつでも丸いのに。

「――ねぇ、ナツメさん」

　ふと、遠く宙を見つめたナツメを、和大の声が呼び戻した。我に返って、ナツメは二度瞬きをした。

「もう帰れる？」

　訊かれて時計を見上げると、午後四時を過ぎていた。辺りは暗くなり始めている。ここからは真っ暗になるまでそう時間は掛からないだろう。

「あと今日のクラブ活動の記録だけ書けば」

　帰れるけど何だよ、とそれだけで揺れる心を知られないよう俯くと、最後は口ごもるような小声になった。

「飯、食わない？」
「――あ？」
「ナツメさんちで。俺作るから」

　返答に困る。和大を家に入れれば、間違いなく踏み込まれる。それを許して良いのだろうか。

「今日母さん出張でいねんだ。俺父親いねぇし。あ、兄弟も」

　迷った様子のナツメに、和大が言葉を重ねた。

　――帰っても、和大は一人。

　それがどんな事か、ナツメはよく知っていた。そしてそれは、いつしか身体に馴染むと言う事も。

　でも。

「――三千円」
「え？」
「材料費。三千円までな。出してやるよ」
「――ん。俺、料理上手いよ」

　和大は、ナツメを切なくする程に穏やかで優しい笑みを浮かべた。




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