Fly Me To The Moon（43）

　ナツメを連れ去ったのが彼の性嗜好を知る者だった場合や、ナツメの容貌や纏う雰囲気の事を考えるとそれもあるかも知れない。ナツメが拉致されたと聞かされた時点で和大もそれは考えた。

「――ん」

　――分かってる。俺は、ナツメさんが無事生きていてくれればそれで。

　けれどもどうか少しでも、ナツメの傷が浅く済むように。

　河辺に頷きを返し、和大は祈るような気持ちでエレベーターの階数表示灯を見上げた。





　最上階でエレベーターを下りるとすぐ目の前に一つだけ、部屋のドアがあった。このフロアには一室しかないのか、と思い至って河辺が迷わずこの階を選んだ事をなんとなく納得する。河辺は数秒そのドアを睨み付け、ドアの呼び鈴を押した。

　和大の喉の奥が、緊張でゴクリと鳴る。

　しばらくして、薄くドアが開いた。河辺がノブを引くと、ドアにはチェーンがかけられているらしくガチ、と音がしてそれ以上ドアは開かずに止まった。

　隙間からどろりとどこか焦点の合わない金髪の男が顔を覗かせる。河辺はすかさず靴をドアの隙間に差し入れた。

「ナツメ、いるだろ？」
「あぁ？　……あぁ」

　ニヤリと笑って男は部屋に視線を向けた。

「ドアを開けろ。ナツメを迎えにきた」
「あ？　頼んでねーよ」

　男はドアを閉めようと、河辺の靴を押しやろうとした。河辺は隙間から室内の空気をくん、と嗅いでみせた。




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