偏愛エレジー（38）

「位織。二年間もの猶予を、ありがとう」
「教授、……」
「そして、身勝手な嫉妬であなたを苦しませてしまった私を、どうか……」

　許して下さい、と小声で詫びて、口元を覆った。

　友永の震える肩。

　多くの論文を発表し、若くして教授にまで到達した友永の、常に穏やかで、けれども己を律する厳しさを持ついつもの威厳はそこには感じられない。

　友永がそんなプライドを捨ててまで、位織に歪んだ執着を見せた程に。

　――俺は本当は、教授にこんなにも愛されてた、んだね。

　やっと友永の気持ちと通じ合うことができた喜びと、けれども今となってはそれも遅く、どうすることもできないという虚しさ。絡まり合って、込み上げる熱に視界が歪む。今目を閉じたらきっと、涙が零れてしまう。

　泣けば友永をまた、期待させてしまうだろうか。

　そして、友永はこの先どうするのだろうか。

　位織が友永を案じていることにさえ、その表情で勘付いたらしい友永が、柔和な表情で微笑んだ。

「私なら大丈夫です。私には、地位も名誉もありますからね。……位織が私とのことを誰にも言わずにいてくれたおかげで」
「教授……、ごめんなさい……」

　思わず頭を下げると、堪えていた涙が頬を伝った。その涙を見せることさえ友永に申し訳ないような気がして頭を上げられずにいると、友永は何も言わずにぽふりと、優しく位織の頭に手を乗せた。





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尚大×位織

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