翌朝、陣内は一人、ベッドで目を覚ました。いつ眠ってしまったのか、覚えていない。そんなに声を上げた記憶はないが、喉がざらついて少し痛かった。まだ重い瞼を開ける事ができずに、手探りで坂崎を探す。狭いベッドのどこにも坂崎を感じられず、一気にまどろみから抜け出した陣内はがば、と起き上がった。部屋の中を見回して坂崎の姿がない事を知ると、陣内は裸のまま部屋を出た。
坂崎の不在が陣内の胸に空虚を作り、その虚しさに飲み込まれそうになる。裸だと思っていた身体には、下着が着せられていた。背後には夕べの情事を思い出させる違和感はあったが、痛みや不快感はなかった。
玄関を見やり、坂崎の靴がある事にほっとして居間に入る。夕べ二人がビールを飲んだ場所にこんもりと、毛布に覆われた山があった。
陣内は坂崎の枕元――枕がないので自らの腕を枕にして眠る、坂崎の顔を見詰めて腰を下ろした。その横顔に、そっと手を伸ばす。
「……あ、陣内さん……はよざいます。すいません、毛布借りました」
陣内の指が坂崎に触れる前に、気配で目を覚ました坂崎が驚いたように身体を起こした。坂崎はさして乱れてもいない短い髪を撫で付けて、寝起きの目を瞬たかせた。
「一緒にベッドで寝れば良かったのに。床じゃ身体、痛かったろ?」
「や、平気です」
坂崎が硬くなった身体を解ぐすように一度大きく伸びをして、首を左右振る。
「……俺の隣じゃ、寝らんなかった?」
「……寝て、良かったんすか」
「ぁ……」
「いけないんじゃないかと思ったんすけど」
前回坂崎と身体を重ねた時の事を思い返す。朝を坂崎と共に迎える事を拒むように黙って部屋を出たのは陣内だった。二人の間に、甘い空気を残す事はできないと思った。
でも今朝は。――坂崎の体温が恋しかった。
あの日坂崎も、一人目覚めてこんな気持ちになったんだろうか。
「やっぱり俺、ずるい……かな」
「え?」
「坂崎、俺と付き合お? こんな始まり方で……悪い」
「陣内さん……!」
坂崎に、抱き締められる。陣内の肩口に顔を埋める坂崎は、泣いているかのようで。陣内は坂崎を抱き締め返し、その背をそっと撫でた。
「ホントに、イイのかな。こんな形でも」
「もちろんです。ありがとう、陣内さん……」
泣いているかと思った坂崎の声は、涙声ではなかった。その事にほっとして小さく笑っていると、坂崎が好きです、と耳元で囁いてキスをした。
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「え?」
「坂崎、俺と付き合お? こんな始まり方で……悪い」
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