コイゴコロヒトツ+ヒトツ（13）

「――解熱剤は出しておきますけど、帰って病院行った方が良いですよ。インフルエンザかどうかは調べておいたほうが良いでしょうね」

　渡された体温計で熱を測ると、七度八分だった。寒い、と訴えると、まだ熱が上がると思います、と保険医は答えた。

　午後の予定を思い起こす。アポが一件。あとは報告書の作成。どちらも明日以降でもなんとかなりそうだ。自力で帰れる間に、と判断し、陣内は早退を決めた。

　部屋に戻ってアポ先に連絡を入れ、部屋着に着替える。どさりとベッドに横たわると相当ダルかったらしく、やっと横になれた安心感からか、すぐに眠気が押し寄せた。

　枕元に置いた携帯のバイブが震える音に起こされたのが午後六時前だった。身体中の関節が痛い。今まで帰らずに我慢していたら到底自力で帰ることができなかっただろう。早退して良かった、と思いながら重い腕を持ち上げて携帯を手にする。着信は坂崎からのメールだった。

『大丈夫ですか。帰りに様子見に行きたいんですけど良いですか？　足りないものあれば買って行くので言って下さい』

　ふと顔が綻ぶ。素直に嬉しいと思った。長く一人暮らしをしてきたが、こんな体調の崩し方は初めてだった。部屋には体温計すらない。食欲はないが、何か食べないといけないだろうか。そういえば保険医が水分をしっかり摂るようにと言っていた。重い身体を引き摺るように帰った陣内には買い物をして帰る余裕はなかった。

『ありがとう。じゃあ何か水分を。玄関の鍵、開けておくな』

　短い返事を返し、陣内はまた目を閉じた。

　次目が覚めたのは午後七時前。呼鈴の音だった。坂崎には玄関の鍵を開けておく、とメールしたはずなのに、と思いながら重い身体を上げ、玄関へと向かった。

「セーイチ……」
「大丈夫すか陣内さん。荷物、色々あるんで中、イイすか？」

　ドアを開けると、立っていたのは石田だった。両手に携えたドラッグストアの大きな袋を持ち上げ、買い過ぎました、と苦笑する。

　――どうしよう。

　鈍い頭で呆然としていると、すいませんお邪魔します、と石田が陣内の許可を得る前に上がり込んできた。



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