コイゴコロヒトツ+ヒトツ（14）

　坂崎はいつ来るんだろうか。もしバッティングしたら。そもそもどうして石田がここに？　――この部屋の住所だって知らないはずなのに。

「陣内さん、ホント辛そうすね。病院には行ったんすか？」

　冷蔵品を移し終えた石田がまだ何か入っている袋を持って寝室に入ってきた。

「行ってない。……それよりセーイチ、なんでここに……？」
「あれ、山下部長から電話なかったすか。俺を行かせる、って電話しておくっつってたんすけど」
「いや、なかった……と思う……」

　寝ていた間にあったのかも知れない。ぼんやり考える陣内の枕元に、石田が腰を下ろした。袋から冷却シートの箱を取り出して、中袋を破っている。

「一人暮らしで熱だと大変だろうから行ってやれ、って事だったんすけど……忙しそうだったから電話できなかったんすかね。住所は部長が人事に聞いてくれました」
「そうなのか……」

　部長の配慮。安堵と、ほんの少しの落胆。まだ何かを期待するような気持ちが自分に残っていた事に少し驚き、そして一人苦笑する。

「俺は陣内さんには彼女いそうだから看病に来るんじゃないすか、って言ったんすけどね」
「――え？」
「違いましたか？」
「そ……んな。彼女なんて……いねぇよ」
「そう、っすか」

　納得したようには見えなかったが、石田はそれ以上追求してはこなかった。

「陣内さん、熱は？」
「家に体温計なくて。……測ってない……、……っ」

　不意に石田の腕が伸びてきた。掌が、額に宛てがわれる。
　狼狽(うろた)えて、動けない。
　石田の冷えた掌。身体中が、その冷たさと熱で混沌となる。

「スゲェ熱いですよ。目も、潤んでる」

　石田が覗き込む。陣内は瞬きさえできずに、ただ石田を見上げた。

　――キス、される……？

　陣内がびく、と身構えたその時、石田がふと視線を外した。

「――坂崎」

　呼吸すら忘れていた。置き去りにされた酸素を取り戻すように呼吸を乱しながら、石田の視線を追って陣内もドアの方を見た。





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