コイゴコロヒトツ+ヒトツ（15）

「陣内さんとは飲み友なんだよ。前に偶然飲み屋街で会って、お互い飲み足りてなくて一緒に飲んだら話合ってさ。それから時々一緒に飲んでんだ。今日陣内さんが早退してくの見たからさ。陣内さんの一人暮らし事情知ってたらやっぱ心配んなるだろ？　……でもお前が来るなら俺は来なくても良かったな」

　用意していたかのような流暢さで一息に言い終えて、はい陣内さん、とスポーツドリンクとゼリー飲料の入った袋をベッド脇に置いた。

「ありがと……」

　――弁解しなければ。石田が来る事を知らなかったと。けど、どうやって？　色々話すには、状況が悪過ぎる。

　もとよりダルさと混乱で、言葉が出て来ない。

「じゃ、俺はこれで。陣内さん、元気んなったらまた一緒に飲みましょう」

　お大事に、と言い残し、坂崎は陣内に背を向けた。

「坂崎、俺も帰るから待てって」

　石田の言葉に坂崎が足を止めて振り返る。

　石田は手にしていた冷却シートのフィルムを剥し、貼りますよ、と言いながら陣内の額に冷えた粘着ジェルを乗せた。

「長居しても疲れさせてしまうだけでしょうから、俺も帰ります。よく休んで下さい。水分たくさん摂って、食えるなら何か食って。冷蔵庫にも色々入れてありますんで」
「ん……色々……助かった」

　それじゃ、と一言残すと石田が立ち上がった。陣内が身体を起こそうとすると、寝てて下さい、と石田がそれを制した。石田が坂崎を促し、戸口に立った二人が振り返り再びじゃあ、と挨拶する。

「ん……ありがとう。……また明日」
「明日も無理して会社来ないようにして下さいよ。何かあれば俺がフォローしておきます」

　戸口から石田が顔だけ出してそう言い残し、二人の姿は見えなくなった。

　玄関のドアが閉まる音をベッドで聞いて、陣内はやっと長い溜息を吐いた。額に掌を置くと、既に温くなった冷却シートはブヨブヨした手応えを陣内に返した。

　坂崎はきっと、いつか来るこういう時のために、あの言葉をずっと以前から用意していたんだろう。

　――俺と坂崎の関係をセーイチに言ってしまう事だって、できたのに。

「――坂崎、……」

　熱の所為か、人恋しかった。身体が覚えてしまった坂崎の体温が傍に欲しいと思った。

　寒さでぞくりと身体が震えた。

　――俺が欲しいのは。

　朦朧とした意識の中自ら投げかけた疑問は、沼地に投げ込まれた石のようにずぶずぶと音もなく、泥沼のような陣内の意識の下へと沈んでいった。




陣内は石田の事を「セーイチ」と呼んでいたことを今日思い出しまんた(；´Д｀)
大慌てで過去記事中での間違いを訂正してあります。
石田＝セーイチです。
分かりにくくて申し訳ありません。



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