すべては愛のせいだろ？（21）

「言ってねーよ遠慮してるつってるだろ。そいつは悦くなかったのかなんか分かんねぇけどヤったあとすぐ帰ってったしそれに」
「それに？」
「――そいつタチだし」

　拗ねたように言い捨てて、聡士は空になったジョッキを見詰めた。

「タチやのに、そいつヤらせてくれたって事？」
「んーまぁ、そう、かな」
「お前がハジメテやったって事やろ？」
「あー、多分」
「お前それどういう事か、分からんの？」
「何が？」

　木戸から無言でだし巻き玉子の皿を差し出され、脇に添えられた大根おろしを突つきながら聡士が言葉の意味を問うように木戸を見た。木戸がやれやれ、と言いたげな表情で、それでもどこか可愛いらしいものでも見るように目を細めて聡士を見た。

「人によるかも知れんけど、俺やったら太一に言われても相当迷うと思うで」
「何を」

「俺に挿れたいって」
「……」

「それでも太一が言うんやったら。やっぱ俺は差し出す事になると思う」
「んー……」

「ほんでヤったらヤったでそのあと相当ヘコむような気がする」
「……なんでだよ」

「悦くなかったら太一相手やのになんで、って思うやろし、悦かったら悦かったで……なんつうんか、自信じゃないけど、今までの自分の持ってた何かが崩壊しそうやし。ほんまは俺に挿れられてばっかりは不満やったんかな、とか。ほんま色々」
「んー……」

「それでも太一が他の誰かに挿れるより、全然イイと思う」
「スゲェな木戸。太一クンの事相当愛しちゃってるね」

　聡士がどこか茶化すような口調で言ったが、木戸はいつものように乗ってはこなかった。それどころか更に真顔になって、聡士をじっと見た。

「分かった？」
「なにが」
「そいつ、お前ん事相当愛しちゃってるね」

　木戸が今聡士が言ったばかりの言葉を、聡士の口調を真似るように言った。




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中野聡士→『にしがひがしに』
山井淳汰→『24/7(twentyfour-seven)』


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