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Sometime Butterfly(42)

BL好きが書いた自作小説を短編・シリーズでぼちぼちアップしています。年下攻率高し。 18禁。
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 ギャラリーは大通りを一筋中に入った、とある画材屋の二階にあった。細い階段を上ると、目の前に開けた白い空間が広がる。

 そこに七斗の姿はなかった。

 時間的なものなのか、そもそもいつもそうなのか、見に来ている客は七月の他にあと二人だけで、新聞記事を見て知ったのか、写真とは縁遠い雰囲気の、仕事帰りのOLらしき女性が、写真を眺めては二人小声で何かを言い合っている。

 入ってすぐのテーブルに一人、受付の女性が座っていた。

 どうぞ、と芳名帳をすっと出され、七月はそれを少しの間じっと見下ろしたが、おもむろにその上に乗せられたボールペンを手に取ると、流麗な仕種でその上に名前を書いた。

 『小池七月』

 自分の名を視線でなぞるように、芳名帳をもう一度じっと見つめたあと、そっとペンを置いた。

 その名前に受付の女性が「あら」と小さな反応を見せたが、写真展の主宰者の名と酷似したこの名前の所為だろうと、七月は無言でごく小さく会釈して、顔を上げた。

 一歩一歩踏みしめて、展示作品に近づく。足を前に出すたび身体が緊張に強張ってゆくのが分かる。大きく息を吐いて、一枚目の写真と向かい合った。

 その写真は蝶の助数詞である「頭」を使うには小さすぎると感じる程に小さな青い蝶が二頭、小雨の降る中、葉の下で雨宿りをしているものだった。

 『ひとときの暖』

 そうタイトル付けられた写真の中で、雨の中寄り添う二頭。青葉の先から今にも落ちそうな澄んだ水の雫が美しい。

 小さな葉の下、互いに暖め合っていると言うのだろうか。けれどもこの雫がぽたりと落ちた時、水の重みを失なった葉は、その反動でばねのように揺れるだろう。二頭はきっと、その揺れに堪えきれずまた、その羽を瞬かせねばならないだろう。

 それまでのほんのひとときの、温もり。


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