すべては愛のせいだろ？（16）

　ただ、心は握り潰された。

　強引な仕種。項に何度も落とされたキス。耳元に響いた、聡士の声。背後から抱き締めるように回された腕。一週間ずっと淳汰に纏わりついて離れなかったもの。仕事を終えて一人の部屋に帰ると、一日中纏わりついていたそれらが疲労とともに一気に押し寄せ、淳汰の体温を上げた。

　――クソ面白くねぇ。

　身体を繋いだから情が湧いたのか。あの居酒屋でも、情事のあとでも自らに確認した。聡士とは『ない』と。

　この一週間、聡士からは何の連絡もなかった。――それは今までと何も変わらない。

　またやって来た土曜。聡士は休みだ。今頃また、誰かをごく簡単な言葉でベッドに誘っているんだろう。淳汰を誘ったのと同じように。

　後続車から鳴らされたけたたましいクラクションではっとする。赤だった信号がいつの間にか青になり、淳汰の前の車はとうにいなくなっていた。淳汰は舌打ちをして、アクセルを踏んだ。







「荷物持ってくるばっかじゃなくてお客さんでも来てね。サービスするから」
「あーはい」

　本日最後の配達。スナックの裏口で通販の商品を受け取った女が淳汰を誘った。やたら擦り寄るような仕種で受け取りにサインをする女から漂う甘ったるい香りに鳥肌を立てながら、それでも淳汰はなんとか笑顔を絞り出した。

　じゃ、と軽い会釈を残して店のドアを閉め、溜め息を吐く。

　――早く家に帰りたい。

　一週間延々同じ思いに取り憑かれて、さすがに疲れていた。憑いたものを降り払うように首を左右に降りながら、淳汰は車に向かった。

「――あー淳汰？」

　車に乗り込もうとした淳汰を呼び止めた声。嫌な予感に眉を寄せながら、淳汰はゆっくり振り返った。





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↓二人がちょろっと出てくる話はコチラ
中野聡士→『にしがひがしに』
山井淳汰→『24/7(twentyfour-seven)』


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