夕焼けが辺りを紅く染めだした頃、和大と千景は一緒に家路をたどった。
「チカ兄、ちゃんと飯食ってる? オレよりずっと細いんじゃねーの? 今日も母さん遅いから、飯、うちで食ってきなよ。オレが作るから」
「チカ兄、ちゃんと飯食ってる? オレよりずっと細いんじゃねーの? 今日も母さん遅いから、飯、うちで食ってきなよ。オレが作るから」
秋晴れの青い空。こんな日は、和大(かずひろ)は少し遠回りして河原の土手を通って学校から帰る。今日みたいな天気の日には、きっといる。
橋を越えて自分の家に近い方の土手沿いをしばらく行くと、風に乗って微かに聴こえてくる。空気をたくさん含んだ、アコーディオンの音。
橋を越えて自分の家に近い方の土手沿いをしばらく行くと、風に乗って微かに聴こえてくる。空気をたくさん含んだ、アコーディオンの音。
――コンコン。
圭吾の住むワンルームマンションの、駐車場に面した唯一の窓から小さくノックの音がする。一階にあるこの部屋の防犯とプライバシー保護のために施されたワイヤー入りの磨りガラスを開けると、自転車に跨ったままの浩太がに、っと笑って立っている。
圭吾の住むワンルームマンションの、駐車場に面した唯一の窓から小さくノックの音がする。一階にあるこの部屋の防犯とプライバシー保護のために施されたワイヤー入りの磨りガラスを開けると、自転車に跨ったままの浩太がに、っと笑って立っている。
「……俺、まだちゃんと言ってなかったよな」
篤が飲み干したビールの缶をくしゃりと握りつぶした。
「涼、好きだよ」
篤が初めて涼を名前で呼んだ。
篤が飲み干したビールの缶をくしゃりと握りつぶした。
「涼、好きだよ」
篤が初めて涼を名前で呼んだ。
「この部屋最後の夜に、かんぱーいっ」
篤は、んぐんぐっと一息で手にしていたビールを飲み干した。
「……早いな」
「そう? 今日は俺の奢りなんだから、作長も遠慮なく飲めよ」
篤は、んぐんぐっと一息で手にしていたビールを飲み干した。
「……早いな」
「そう? 今日は俺の奢りなんだから、作長も遠慮なく飲めよ」
「兄ちゃん、今日はかなかな捕りに行く約束した日だよっ」
伸一(ノブイチ)が学校より戻ったと同時にハルが駆け寄って来た。
「そうだったね。用意は出来てるかい?」
伸一がそう訊ねるのも聞かず、ハルは元気よく表に飛び出した。
「早く早くっ!」
虫かごを肩に掛け、網を手に伸一を手招きする。
伸一(ノブイチ)が学校より戻ったと同時にハルが駆け寄って来た。
「そうだったね。用意は出来てるかい?」
伸一がそう訊ねるのも聞かず、ハルは元気よく表に飛び出した。
「早く早くっ!」
虫かごを肩に掛け、網を手に伸一を手招きする。
翌日、家族で祖父の墓参りに出掛けた。普通に歩けば十分くらいの道のりを、祖母と歩く為その倍の時間を掛ける。時折吹き抜ける爽やかな風が、じっとりと滲み出る汗を拭い取ってくれる。
墓は、ほぼ毎日ここを訪れる祖母の手により美しく手入れがされていた。可愛らしい野の花も供えられている。いつもは祖母が行っている作業だが、今日は僕が墓を洗い清めることになった。僕は墓標に水を遣り、手を掛けた。代々の僕の祖先の名前。知っているのは、祖父の「伸治」という名前だけ。僕の名前は、僕の誕生を心待ちにしていた祖父の名前を取って、「伸春」とつけられた。漢字が違うのは、僕が春生まれだからだ。
僕は「伸治」の横に並ぶ、「伸一」という名前に初めて気付き、手を止めた。
墓は、ほぼ毎日ここを訪れる祖母の手により美しく手入れがされていた。可愛らしい野の花も供えられている。いつもは祖母が行っている作業だが、今日は僕が墓を洗い清めることになった。僕は墓標に水を遣り、手を掛けた。代々の僕の祖先の名前。知っているのは、祖父の「伸治」という名前だけ。僕の名前は、僕の誕生を心待ちにしていた祖父の名前を取って、「伸春」とつけられた。漢字が違うのは、僕が春生まれだからだ。
僕は「伸治」の横に並ぶ、「伸一」という名前に初めて気付き、手を止めた。
学の望遠鏡は本当にあの時と同じ物なのだろうか。そう思ってしまうくらいに小さい。ここまで運ぶの、結構大変だったのに。今はおもちゃのように軽々とそれを学は持ち運んでいる。
「じゃぁ、始めようか」
「じゃぁ、始めようか」