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じゃじゃ馬ならし(リーマン年上攻)

BL好きが書いた自作小説を短編・シリーズでぼちぼちアップしています。年下攻率高し。 18禁。
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 ――刻々。

「うちに納品されたらすぐお返ししますんで、……、あ、そうですか……わっかりました。じゃまた、何かありましたら、よろしくお願いします」

 受話器は置かない。

 フックだけを指先で弾くように押して、また次の支店の番号を押す。否、支店はもう電話し尽してしまっていた。ここからは大量の在庫数は望めない営業所に電話を掛けていかなければならなかった。

 元気に受け答えしてはいたが、もちろん空元気だ。

 大敬の視線の先、電話で話していた山中がふと大敬に目線を向けた。

 山中と目が合って、慌てて山中から視線を外す。

 山中に助けを求めていると思われたに違いない。いや、実際無意識下で彼に助けを求めていたのかも知れない。

「モノが出ない、んですか?」
『そうなんです、織りの段階で不良が出ちゃったんですよ』

 ようやく背後の軋みも抜けた水曜。午前中に関西からの移動を終え、午後一で関東支社の自席に着いたばかりの大敬に海外の工場から一本の電話が入った。

 殺風景な部屋は家具が少ない。

 水音を辿ってバスルームまで行くと、脱衣所に乾燥機能付きの洗濯機が置かれていた。単身赴任なのだろう、山中の妻がこの部屋には住んでいないとなると、いずれにしても毎夜のように残業のある彼の仕事ぶりでは、日々の洗濯さえ難しいことだろう。気配を消して乾燥機の中を覗くと、案の定乾いた洗濯物が中に入っていた。数日分のものと思われる山中の衣服に混じって、大敬の下着も見える。

 大敬の下着一式とワイシャツを探し出し、そっと脱衣所から離れた。

 誰かに聞いてみるまでもない。

 その目元、口元。

 この子は間違いなく、山中の遺伝子を受け継いでいる。

「――なんだよ、コレ」

 ひとこと呟いて、そっと写真立てを元に戻した。

 特に何のこだわりも感じさせない、ごくありきたりなスチール製の本棚。

 ざっと見たところ、剣道関連の雑誌やスポーツ心理学などの書物が並び、いかにもナシノの社員らしいラインナップだ。

 上から順に目でタイトルをなぞってゆくと、その中段の端の方に、書物の置かれていない空洞があることに気づいた。

 よく見るとそこに、写真立てが伏せて置かれていた。

 ゆっくりと去ってゆく唇。

 うつろな目で、その唇を見送った。

 その表情を山中はにんまりと見つめ、名残惜しげに濡れた唇にもう一度、触れるだけのキスを落とした。

「誰しも正しく愛されれば輝いてくるんだよ。見ろよ吉森。最近スゲェ色気出てきてんじゃねぇかよ。それも含めてお前じゃダメだったってことだよ」
「……、そんな……」

 山中が、さらに追い討ちを掛けるような言葉をたたみかけた。

 突然出された名前にズキリと胸が痛む。

「俺からしたらお前がこんなエロビさながらに快感に流されちまうよなヤツだったなんて……心配んなったくらいだよ」
「心配?」

 一体何が心配なのかと、相変わらずの眉を寄せた険しい表情で山中を見た。

 そこには、山中の甘い笑みが大敬を待ち受ける。

 その笑みを描く形の良い唇から、えもいわれぬ色気が垂れ流されている。大敬は思わずどきまぎと目を逸らし、不貞た表情で再び俯いた。

「――は?」
「煙草」
「へ?」
「お前吸わねぇもんな。俺の健康のためにも、いい機会だし」

 うんうんと鷹揚に頷いて、山中がサイドテーブルに置かれていた煙草の箱を取ったかと思うと、それをくしゃりと握り潰してごみ箱に投げ捨てた。

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