コイゴコロヒトツ+ヒトツ（20）

　坂崎に、背後から抱き締められていた。背中の暖かさに、心まで暖かく満たされてゆく。身体にはスウェットと下着が着せられていた。記憶にはないが、多分また身体の中の始末もしてくれたんだろう。身体に回された坂崎の腕をそっと撫でた。骨ばった手。この手が、優しく、時にいやらしく動いて陣内を高みへと導く事を知っている。この体温が、陣内を安堵させ心地良い眠りに誘う事も、もう知ってしまった。

　――坂崎がいなくなってしまったら。

　一人の週末を、もうどうやって過ごせば良いのか分からない。石田を想う気持ちとは違う、暖かくて切ない感情。

　坂崎が好きだ、と思った。

　――言わなければ。

　ちゃんと、話をしよう。坂崎に恋した、と。この週末、一緒に過ごす、その時に――。

　形を変えたばかりの恋心を胸に収め、背中の暖さに誘われた陣内は再び目を閉じた。






「――陣内さん」
「……ん」

　呼ばれて目を開けると、スーツ姿の坂崎が立っていた。

「すいません、俺会社行かねぇと」
「……ん」
「熱、どんな感じすか？」

　坂崎が額に手を置いた。幸せだな、と感じて自然目元が綻ぶ。坂崎がその表情に魅入られたように陣内を見詰める。

「陣内さん……、キスしてイイすか？」

　許可を求める坂崎が愛しい。陣内はふと微笑んだ。

「俺も、坂崎とキスしたい」

　坂崎が目を細めてその表情を緩めた。ゆっくりと坂崎の顔が近付いてくる。陣内は坂崎の背に腕を伸ばし、そっと引き寄せた。




「――一旦会社行って、営業車でまたここに来ます。病院行くなら、送りますよ」
「ど……かな、熱はもう引いたっぽいけど」
「声がまだ風邪っぽいですよ。鼻声だし……会社は今日一日くらいは休むんでしょう？」
「ん……そうするかな」
「会社の方には陣内さんから連絡、入れて下さい」
「ん……」

　じゃあ、と少し名残惜しそうに坂崎が戸口へと向かう。

「坂崎、……」

　呼ばれた坂崎が振り返った。

「はい」
「ありがとう……」

　坂崎は陣内を眩しそうに見詰めて目を細め、はい、と小さく頷いて部屋を出て行った。



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