主よ、人の望みの喜びよ（６）

　午後九時少し前。夕食も終え、月曜発売の漫画雑誌も一通り読み終えた。そろそろ明日の予習にかからないと、と思いながらもダラダラと寝返りを打ち、歩はベッドで頬杖をついた。時間割に目を遣らなくても分かる。英語と数学は、毎日ある。そろそろ受験を見据えた勉強もしないといけない。成績は悪くはない。このまま普通に行けば、大した勉強をしなくても持ち上がりでＭ大には行けるだろう。けれども歩は進路希望調査票の第一志望にはＫ大と書いた。慎治の出た大学。ランクでいえばＭ大のワンランク上か、それ以上。先生からは頑張れば狙えるだろうと勧められた。何より慎治の後輩になって、慎治に認められ、そしていつか肩を並べたいと思っていた。

　脇に置いた携帯で時刻を確認した。八時五二分。九時になったら動こうと、伸びをしたその時、携帯が着信に震えた。慎治からだった。

「はい」
『歩？　俺』
「うん、お疲れ様」
『歩、……』
「……どしたの？」

　いつになく言葉に詰まる慎治の様子に、不安が過ぎる。

『歩、もう俺の所には、来るな』
「……え？」

　耳を疑う。今何て？　視界に映る物から色がなくなってゆく。

『もう、お前とは会わねぇつってんだよ』
「なんでだよ……？」
『お前はまだ高校生なんだから、今やんないとなんねぇ事をやれ』
「なんだよソレ？　意味分かんねーよ」
『分かんねぇ事ねーだろ。考えろよ。今一番大事な事は、俺といる事じゃねぇ。俺にとっても……』
「慎治さん、マジで言ってんの？」
『ああ。じゃあな、歩』
「慎治さんっ……」

　一方的に電話が切れた。慌てて慎治にかけ直すが、電源を切ったんだろう、何度かけてももう繋がらなかった。

　諦めて、携帯を閉じた。その拍子にディスプレイに光が灯る。今八時五四分。

　歩は立ち上がって携帯と財布をデニムのポケットに突っ込んだ。




←５へ　/　７へ→
１から読む



歩×慎治(高校生×リーマン）につきましてはコチラ↓R18です。

メイン　　　　→『雨がやんだら』
番外　　 　　→『十二月二四日、夜八時』
会話のみ　 →『今日のピロートーク』
　　　　　　　　　『クリスマスイブの過ごし方』
　　　　　　　　　『ただそれだけの朝』



↓ランキング参加中す。よければポチっと押してクダサイ
　 書く意欲に繋がってます。
にほんブログ村