2ntブログ

主よ、人の望みの喜びよ(8)

BL好きが書いた自作小説を短編・シリーズでぼちぼちアップしています。年下攻率高し。 18禁。
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 マスターに優しく追い返されて、結局ビールを少し飲んだだけで帰路に就いた。昼から何も固形物は口にしていないが、食欲はない。

 歩はどうしているだろう。兄に知られている事を、歩は知らずに済んだだろうか。全ては歩が大切にしているものを守るため。ひいては歩を守るため。あとの事は歩の兄に任せておけば良いんだろう。もし歩が傷ついたとしても、どうかなるべくその傷が浅く済むように。祈りながら一歩一歩を踏み締めた。


 気疲れからか、どこか思考が鈍る。自宅までの道のり、刺すような風に頬を打たれる、その痛さが慎治を飲み込んでしまいそうな靄から現世に引き戻してくれるようで、少しありがたかった。

 エレベーターを下りると、部屋の前に人影が見えた。目を凝らし、それが歩だと判って愕然とする。あの時刻からまさか来るとは思ってもみなかった。しまった、と思わず左腕の時計を見る。針は十時半過ぎを指している。歩の家からここまで、電車を使って四〇分弱。あの電話のあとすぐ歩が家を出ていたなら一時間近く歩を待たせていた事になる。店に寄らず帰っておくべきだったか、あるいは店で粘って歩を諦めさせた方が良かったか。

 寒い廊下で待っていたんだろう、少し赤くなった鼻先。慎治の胸を切なく抉って泣きたくなる。

「どこ行ってたんだよ」
「飯だよ。お前こそなんでココにいんだよ。もう来るなっつっただろ」

 慎治一人中に入ろうと玄関ドアを薄く開け、身体を滑り込ませようとした所に歩の足が差し込まれ、一緒に中へ入られてしまった。どうしようか迷ったが、歩の存在を無視するかのように靴を脱ぎ、コートを脱ぎながら部屋の奥へと進む。歩も靴を脱いで慎治のあとを追ってきた。

「あんな言い方されて、分かったなんて言えるワケねぇだろ」
「説明はしただろ? お前は俺といるよりやるべき事がたくさんある」
「だからってもう会わないとか、そこまで言わなくてもイイだろ慎治さん……っ」

 コートをハンガーに掛け、背広を脱いだ所で歩の腕が伸びてきた。腕を掴まれ、歩と向き合う。



←7へ / 9へ→
1から読む
この時の歩視点→8_歩



歩×慎治(高校生×リーマン)につきましてはコチラ↓R18です。

メイン    →『雨がやんだら』
番外     →『十二月二四日、夜八時』
会話のみ  →『今日のピロートーク』
         『クリスマスイブの過ごし方』
         『ただそれだけの朝』



↓ランキング参加中す。よければポチっと押してクダサイ
  書く意欲に繋がってます。
にほんブログ村
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ




コメント
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
この記事のトラックバックURL
http://gerberahybridblog.blog.2nt.com/tb.php/269-d2834eca
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

 | Copyright © がっつりBL的。 All rights reserved. | 

 / Template by 無料ブログ テンプレート カスタマイズ