震えるようにゆっくりと手を上げ、弧を描くその唇を指先でなぞる。すると、貴史の笑みが深まった。その表情を確かめるようにそっと、貴史の頬に手のひらを添わせた。
少しの間、見つめ合い、そしてどちらからともなく唇を寄せ合った。
少しの間、見つめ合い、そしてどちらからともなく唇を寄せ合った。
「――ごめん、正直言うと生が俺と同じだってだって分かったら、途端に下心が顔出したってのもホント。しかも生、恋愛もうまく行ってねぇみたいだったし」
黙っていれば分からないことなのに、正直に打ち明ける貴史が愛しい。生は緩く首を横に振った。
黙っていれば分からないことなのに、正直に打ち明ける貴史が愛しい。生は緩く首を横に振った。
「けど次生と話した時も、生はやっぱ初めて話した時と同じように俺に接したから、あー俺って印象ねぇかな、とか、魅力ねぇのかな、とか、だんだん自分に自信、つか、そんなの元々そうあったわけじゃねんだけど、そういうのがなくなってきた、つか。要するにイジけちまってたんだよ」
苦く笑う貴史の表情が、けれども今となってはそれを懐かしんでいるかのようにも見えた。
苦く笑う貴史の表情が、けれども今となってはそれを懐かしんでいるかのようにも見えた。
「――毎日十一時頃、だったろ」
「え、……?」
「生がラクトに来てたの」
「あ……、ぅん」
フロントに負担をかけないようにと、訪問客が一番少ないとフロントスタッフから聞いた時間帯。いつも、なるべくその時刻を狙ってジムを訪れていた。
貴史がそんなことまで知っていたなんて、と小さな感動に胸が震える。
「え、……?」
「生がラクトに来てたの」
「あ……、ぅん」
フロントに負担をかけないようにと、訪問客が一番少ないとフロントスタッフから聞いた時間帯。いつも、なるべくその時刻を狙ってジムを訪れていた。
貴史がそんなことまで知っていたなんて、と小さな感動に胸が震える。