主よ、人の望みの喜びよ（11）（R18）

「慎治さん、俺の事好きだって、言ったじゃねーかよっ」

　好き――好きかどうかはもはや分からない。歩が全てだ。歩が一番大切なものを、守りたい。そのためなら、自分を殺せる。

　――愛してる歩。

　初めて歩を抱いた夜に一度だけ、まどろむ歩に囁いた。歩に届いただろうか。例え歩が俺の事を忘れても、歩が幸せに生きているなら、その事実だけで生きていける。

「慎治さん……っ」

　歩の声を、熱を、身体を。己の細胞の全ての記憶に刻み付けて。この身が朽ちても、記憶が残るように。

　慎治の雄に、歩の手が伸びてきた。そこが萎えている事を許さないと言いたげな手つきで、未だ固さを持たない慎治を握り、扱き立てる。少しすると、痛みの中に官能の火が灯った。

　――感じてんじゃねーよ、俺。

　抵抗は、頭の中で虚しく空回る。慎治自身を昂ぶらせようと動く歩の手。何度も重ねた行為で歩に慣らされた身体は、その意図を持って動き出した歩には抗えない。身体が、少しずつ熱を帯びてゆく。

「慎治さんだって、俺で感じてんだろ……っ？」
「っ、……く、はっ……」

　形ばかりの抵抗を見せるように、首を緩く左右に振る。歩が苛立ったように小さく舌打ちした。纏め上げた腕が引っ張られ、上体を引き上げられると同時に首根に歩の歯を感じた。

「んっ、……っ」

　少しずつ歯が食い込んでくる。尖った歯が慎治の皮膚を破ると、滲み出たらしい血をざらりと舐め上げられた。その間も前が扱かれ、痛みと快感が綯い交ぜになる。混沌とした意識の中、歩の噛み癖が愛しくて、知らず笑みが零れた。




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