直登は要の肩に手を突いてがばっと要から上体を離した。
「先生、あの男とヤったことあるでしょ」
「え? ええと……」
突然の問いに、要は一瞬拍子抜けしたような表情を見せる。少し考え、思い当たる節があるのか、ぎく、と顔を強張らせた。
「先生、あの男とヤったことあるでしょ」
「え? ええと……」
突然の問いに、要は一瞬拍子抜けしたような表情を見せる。少し考え、思い当たる節があるのか、ぎく、と顔を強張らせた。
「ちょ、痛いって」
腕を引っ張られ連れてこられたのはデパートから一番近いシティホテルの一室だった。
「さっきから黙ったままこんな所まで連れてきて、何のつもりだよ」
部屋に入ってやっと離された腕をさすりながら要は直登を睨み付けた。
「せんせ、さっきの名刺、出して」
「え?」
「さっきのデパートの男の名刺」
一体何なんだ、と言いたげに、けれども直登の迫力に負けたらしく要は唇を尖らせながらもポケットから先程受け取った名刺を取り出し直登に渡した。
腕を引っ張られ連れてこられたのはデパートから一番近いシティホテルの一室だった。
「さっきから黙ったままこんな所まで連れてきて、何のつもりだよ」
部屋に入ってやっと離された腕をさすりながら要は直登を睨み付けた。
「せんせ、さっきの名刺、出して」
「え?」
「さっきのデパートの男の名刺」
一体何なんだ、と言いたげに、けれども直登の迫力に負けたらしく要は唇を尖らせながらもポケットから先程受け取った名刺を取り出し直登に渡した。
「あれえ、吉塚じゃん」
直登と要は第一の目的だったワイングラスの購入を無事終え、「ワイシャツを買いたい」という要の希望で、百貨店の五階メンズウェア売り場に立ち寄った。ブランド別・素材別・サイズ別にずらりと並べられたシャツの陳列棚の前で、すぐにでも部屋に戻りたくてウズウズしている直登を尻目に、要はあれこれ手に取り、のんびりと品定めをしているところだった。
直登と要は第一の目的だったワイングラスの購入を無事終え、「ワイシャツを買いたい」という要の希望で、百貨店の五階メンズウェア売り場に立ち寄った。ブランド別・素材別・サイズ別にずらりと並べられたシャツの陳列棚の前で、すぐにでも部屋に戻りたくてウズウズしている直登を尻目に、要はあれこれ手に取り、のんびりと品定めをしているところだった。
「……!直登、俺……?」
「せんせ、スッゲ可愛かったよ。俺の耳噛んだり、泣いちゃったり」
「……そう、なのか……? マジで?」
「ホント」
「せんせ、スッゲ可愛かったよ。俺の耳噛んだり、泣いちゃったり」
「……そう、なのか……? マジで?」
「ホント」
「せんせ、家着いたよ。鍵、出して」
「ん? んん」
「かーぎ」
ポケットをごそごそと探って出てきた鍵を要は自らおぼつかない手つきで鍵穴に差し込んだ。がちゃがちゃと音を立てるも、酔いのせいでなかなか上手くいかない。その間も要の体重を支える直登の視界で、うっすら紅く染まった要の耳がゆらゆら揺れる。
「ん? んん」
「かーぎ」
ポケットをごそごそと探って出てきた鍵を要は自らおぼつかない手つきで鍵穴に差し込んだ。がちゃがちゃと音を立てるも、酔いのせいでなかなか上手くいかない。その間も要の体重を支える直登の視界で、うっすら紅く染まった要の耳がゆらゆら揺れる。
「んも~お! 俺が全っ部払うったら払うンだよ! 直登、学生のくせに生意気あんだぉっ。学生は大人しく奢られてたらいいっつーの」
直登は急変した要に驚いたように目を瞬かせて目の前の酔っ払いを見た。
直登は急変した要に驚いたように目を瞬かせて目の前の酔っ払いを見た。
「せんせ」
「?」
「今、彼氏、いる?」
そう聞かれて、賑わう居酒屋の雑音が凍りつき、要の耳には届かなくなった。代わりに自分の心臓の音がばくばく聞こえる。酒の所為か、心臓は爆発しそうに脈打っていた。
「?」
「今、彼氏、いる?」
そう聞かれて、賑わう居酒屋の雑音が凍りつき、要の耳には届かなくなった。代わりに自分の心臓の音がばくばく聞こえる。酒の所為か、心臓は爆発しそうに脈打っていた。
引越し屋か。似合ってるだろうな。要は、ビールのジョッキを持つ直登の腕を眺めてそう思った。骨太で、美しく引き締まった筋肉がついた逞しい腕。どちらかというと華奢で体力もあまり無く、学生時代のアルバイトと言えば、家庭教師くらいしかできなかった要とは随分違う。
三十分程、と言ったが結局仕事が片付くのに小一時間掛かってしまった。もう帰ってしまっただろうか、などと思いながら階下の喫茶店を覗くと、そこには店のスポーツ新聞を読みながら座っている直登の姿があった。
「吉塚ク~ン、お客さんよ」
定時はとっくに過ぎた午後七時。しかし吉塚要の勤務する某コンピュータ販売会社では、社員は一向に帰る様子もなく、むしろパーテーション一つ隔てた隣の営業セクションでは外出から戻った営業マンたちが、今から仕事とばかりに昼間より活気づいている。
「客? 俺に?」
定時はとっくに過ぎた午後七時。しかし吉塚要の勤務する某コンピュータ販売会社では、社員は一向に帰る様子もなく、むしろパーテーション一つ隔てた隣の営業セクションでは外出から戻った営業マンたちが、今から仕事とばかりに昼間より活気づいている。
「客? 俺に?」