『淳汰お前はさ、俺を口説いて、俺が落ちたら満足して、そしたらそれで終わりだろ?』
二人が友達から恋人になる直前、聡士が言った。だから聡士から淳汰を口説くと。
あれから半年。思えばずっと、聡士は淳汰を口説き続けてきた。淳汰がふとした瞬間、流されるようにただ抱かれるだけの自分に不安になった時も。七月に偶然出会って、聡士からの連絡を七月に請われた時も。
聡士の気持ちを疑うことはなかった。
それは聡士が必要な時に必要な言葉を淳汰に掛けていたから。
二人が友達から恋人になる直前、聡士が言った。だから聡士から淳汰を口説くと。
あれから半年。思えばずっと、聡士は淳汰を口説き続けてきた。淳汰がふとした瞬間、流されるようにただ抱かれるだけの自分に不安になった時も。七月に偶然出会って、聡士からの連絡を七月に請われた時も。
聡士の気持ちを疑うことはなかった。
それは聡士が必要な時に必要な言葉を淳汰に掛けていたから。
聡士の両手が淳汰の胸座を掴む。
ほんの一瞬。ぐらりと視界が揺れたと思ったら、引き倒され、床に押さえ付けられていた。淳汰に馬乗りになる聡士を、淳汰はそれでも怯むことのない表情で睨み付けるように見上げた。
ほんの一瞬。ぐらりと視界が揺れたと思ったら、引き倒され、床に押さえ付けられていた。淳汰に馬乗りになる聡士を、淳汰はそれでも怯むことのない表情で睨み付けるように見上げた。
――キスくらい。
大した事じゃない。実際淳汰も過去他の男と付き合っている時、聡士と何度もキスをした。キスだけじゃない。それ以上の裸の付き合いもあった。淳汰はそれを浮気だとは微塵も思わなかったし、聡士も恐らく何の後ろめたさも感じていなかっただろう。
つまり、そういう事だ。
大した事じゃない。実際淳汰も過去他の男と付き合っている時、聡士と何度もキスをした。キスだけじゃない。それ以上の裸の付き合いもあった。淳汰はそれを浮気だとは微塵も思わなかったし、聡士も恐らく何の後ろめたさも感じていなかっただろう。
つまり、そういう事だ。
「どした淳汰、疲れてんの?」
聡士が淳汰の横に膝を折ってしゃがみ、淳汰を覗き込んだ。
「いや……」
――何か言えよ聡士。
「飯は?」
「食ってねぇ」
「あ? マジ? 何か食い行く?」
「いや、いい」
食欲がないわけではないと思うが、空腹感がなかった。それを食欲がないと言うのか、と自ら思い至って淳汰は苦笑した。
聡士が淳汰の横に膝を折ってしゃがみ、淳汰を覗き込んだ。
「いや……」
――何か言えよ聡士。
「飯は?」
「食ってねぇ」
「あ? マジ? 何か食い行く?」
「いや、いい」
食欲がないわけではないと思うが、空腹感がなかった。それを食欲がないと言うのか、と自ら思い至って淳汰は苦笑した。
気付いたら、淳汰は自室の壁にもたれて座っていた。二人のキスを見たあのあと、どうやって残りの仕事をこなしたのか、どうやってここまで帰ってきたのか記憶にない。
部屋は明るく、電灯が点いていたが、そのスイッチを入れた記憶も曖昧だ。
部屋は明るく、電灯が点いていたが、そのスイッチを入れた記憶も曖昧だ。
「誘っただろ?」
「……ん、まだ連絡もらってないけどね」
「淳汰からなら連絡来ることはねぇよ」
「なんで聡士が言えんの?」
「俺のだから」
「……、……へぇ。そういう事」
七月はいかにも興味をそそられたように笑みを浮かべ、薄目で聡士を見た。
「……ん、まだ連絡もらってないけどね」
「淳汰からなら連絡来ることはねぇよ」
「なんで聡士が言えんの?」
「俺のだから」
「……、……へぇ。そういう事」
七月はいかにも興味をそそられたように笑みを浮かべ、薄目で聡士を見た。
時刻は午後六時半過ぎ。日の入りもとおに過ぎ、辺りは外灯の助けがなければ漆黒となるだろう時刻。けれどもオフィス街のこの地は真夜中でさえどこかで働く者の影がある。
多くの企業では就業時刻直後のこの時間帯、ビルの窓から零れる光はまだ煌々と、街が明るくなる程に辺りを照らしていた。
多くの企業では就業時刻直後のこの時間帯、ビルの窓から零れる光はまだ煌々と、街が明るくなる程に辺りを照らしていた。
「……行くな。これでもお前に独占欲出てきてんだよ。もう誰にもお前ん事は触らせねぇ」
――独占欲。
その言葉が淳汰を甘く支配する。
「……行かねぇよ。今言ったろ」
淳汰は濡れた唇を手の甲で拭った。
――独占欲。
その言葉が淳汰を甘く支配する。
「……行かねぇよ。今言ったろ」
淳汰は濡れた唇を手の甲で拭った。
「それよりお前、七月に、何か、言われてね?」
「ああ……飲みに誘われた」
その言葉に聡士がぴくりと反応する。ほんのひと時動きを止め、腕を伸ばしたまま淳汰をちらりと見て、またすぐに動きを再開した。
「ああ……飲みに誘われた」
その言葉に聡士がぴくりと反応する。ほんのひと時動きを止め、腕を伸ばしたまま淳汰をちらりと見て、またすぐに動きを再開した。