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コイゴコロ(完結)(リーマン年下攻)

BL好きが書いた自作小説を短編・シリーズでぼちぼちアップしています。年下攻率高し。 18禁。
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 帰りにコンビニで弁当を買ったものの、食べる気が起きず、机に置かれたままの弁当を眺めながら坂崎は缶ビールを呷った。まだ着替えてさえもいない。

「――くそっ」

 石田が行動に出た。予想以上に早かったそれに、坂崎はさすがにまだ心の対処ができずにいた。あっと言う間に空になった缶をぐしゃ、と握り潰し、力任せに壁に投げ付ける。僅かに残った中身が壁に当たった拍子に零れ、床に水滴を飛ばした。


「そ、なのか……おめでとう、出世街道まっしぐらだな。でも……寂しくなるな」
「また……そんな事言う」

 切なく笑った石田が再び腕を伸ばした。不意に、石田の腕に包まれる。

「陣内さんの事、優しい先輩だな、って思ってました。俺の事いつも気に掛けてくれて、俺が助けを求める前にいつも助けてくれて」

 ――それは。……セーイチ、お前しか見てなかったから。

 陣内を押さえ付けたまま、淡々と石田が話す。鼻先が触れ合いそうな至近距離。緊張で呼吸が荒くなる。

「陣内さん、ちょっとイイすか?」

 大半の人間は帰宅し、そろそろオフィスにいる人もまばらと言って良い具合に閑散とし始めた午後八時過ぎ。石田が陣内に声をかけてきた。

 陣内の熱は一日休んだその日の内に治まり、その翌日には少しの鼻水と咳を残しつつも薬の力を借りてなんとか出社に漕ぎ着けた。一日半の休みで溜まった仕事を片付けるべくパソコンに向かっていた陣内は顔を上げた。


 明け方陣内は一度目を覚ました。カーテンから漏れる光はまだ夜と変わりない。遠くで聞こえる新聞配達のバイクの音でその時間帯を知る。高熱が出た後の倦怠感は残っていたが、身体を動かすのも億劫になりそうなあのダルさはない。熱はまだあるのかも知れないが、あったとしても後はもう下がるだけだろう。

※性描写アリです。18禁でおながいします。


「……坂崎」
「はい……」
「して、欲しい……」
「……え」

 一瞬、己の耳を疑う。固まる坂崎の腕の中で、陣内が身じろいで坂崎の方を向いた。熱で潤んだ瞳で坂崎を見る。それだけで飛びそうになる理性を、陣内の身体を気遣う気持ちだけで抑えつける。


 陣内の部屋の前に立った坂崎は、そっと玄関ドアのノブを回した。ノブはゆっくりと回り、軽く引くとドアは音もなく開いた。中に入ると内側から鍵をかけ、なるべく音をたてないように寝室に入った。

 息を潜めて陣内の様子を伺う。ベッドで横を向いて眠る陣内の呼吸は少し荒く、呼吸の度肩が大きく上下する。枕元にはあっと言う間に天寿を全うしたらしい冷却シートが、額から剥れたのか半分乾燥し丸くなって落ちていた。


「……でもイイなら」
「え?」

 さっきから少しずつ焚き付けられていた感情が、一気に沸点を超えた。坂崎は石田の胸座に掴みかかった。

「どっちでもイイならっ! 女でイイじゃねぇかよっ! なんで陣内さんなんだよっ!」


 陣内の住むマンションのエントランスを出て駅までの道のりを、坂崎と石田は並んで歩いた。少し歩くと商店街に入る。駅から真っ直ぐ伸びた地元の商店街はこの時間少しの飲食店を除いてどの店もシャッターを下ろし、まばらに歩く人達も駅から家路を急ぐ人ばかりで駅に向かうのは坂崎と石田の二人だけだった。

「――坂崎」

 無言で歩いていた二人の沈黙を破ったのは石田だった。呼ばれた坂崎は黙ったまま石田に視線を向けた。


 戸口には坂崎が立っていた。

「あー……石田。来てたんだ」
「おう。販ニの代表でな。お前は? なんで陣内さんとこに?」

 坂崎が表情を硬くしたのはほんの一瞬だけだった。ふと笑みを見せた坂崎は、ごく普通に、普段と同じ表情で、眉を上げた。



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