「あっれ……あのクスリ、幻覚もあるんだったかな……」
腕の中のナツメがぼんやり呟く。
「幻覚じゃないよナツメさん……俺だよ。和大」
「和大……? ……何しに来たんだよ」
「ナツメさん迎えに」
「……こんな俺、迎えにとか……バカだろ、お前」
ナツメが気怠く身体を揺らして笑う。
腕の中のナツメがぼんやり呟く。
「幻覚じゃないよナツメさん……俺だよ。和大」
「和大……? ……何しに来たんだよ」
「ナツメさん迎えに」
「……こんな俺、迎えにとか……バカだろ、お前」
ナツメが気怠く身体を揺らして笑う。
「――俺らのあとにまだ順番待ちかよ。どんだけインランなんだよ」
「ちが……」
「黙れ」
和大が言い返すより早く、河辺の手が出ていた。
「ちが……」
「黙れ」
和大が言い返すより早く、河辺の手が出ていた。
「お前らが中で何やってんのか分かってんだよ。ドア開けねぇと警察呼ぶっつってんだよ」
河辺が隙間から、奥のヨシヤに聞こえるように大きな声を投げかけた。
「父親のホテルで身内が警察沙汰起こしたらやっぱヤバいよなぁ? いいのかよ、パクられても」
ほら電話すっぞ、とポケットから取り出した携帯を開いて見せた。
河辺が隙間から、奥のヨシヤに聞こえるように大きな声を投げかけた。
「父親のホテルで身内が警察沙汰起こしたらやっぱヤバいよなぁ? いいのかよ、パクられても」
ほら電話すっぞ、とポケットから取り出した携帯を開いて見せた。
河辺と二人エレベーターに乗り込み、あまり迷った様子もなく行き先階のボタンを押すその仕草に、和大はこの先のことはひとまず河辺に任せようと思った。
「――ある程度は覚悟しておけよ」
河辺が言った。
――覚悟。
ナツメが何らかの形で傷付けられているかも知れないという事だろう。最悪の場合、ナツメを心身ともに傷付ける――強姦も。
「――ある程度は覚悟しておけよ」
河辺が言った。
――覚悟。
ナツメが何らかの形で傷付けられているかも知れないという事だろう。最悪の場合、ナツメを心身ともに傷付ける――強姦も。
「――お前、バカだろ」
「ナツメさんにも言われる」
和大は笑った。
その笑みに、僅かな敗北感のような、悔しさにも似た感情が河辺の心に過ぎる。そして同時に、なぜナツメが変わり始めていたのか、その理由も理解ったような気がした。
信号が青になる。河辺は再びアクセルを踏んだ。
「ナツメさんにも言われる」
和大は笑った。
その笑みに、僅かな敗北感のような、悔しさにも似た感情が河辺の心に過ぎる。そして同時に、なぜナツメが変わり始めていたのか、その理由も理解ったような気がした。
信号が青になる。河辺は再びアクセルを踏んだ。
「今日に限って……俺が行かなかった所為で……っ」
――ナツメは俺を、呼んだのに。
河辺を襲う後悔。己の不甲斐なさに、河辺は奥歯を噛み締めた。
「……ナツメさんはいつも、あんたと会ってたの?」
視線を外から河辺に向けて、和大が訊いた。河辺は和大を斜に見やった。
――ナツメは俺を、呼んだのに。
河辺を襲う後悔。己の不甲斐なさに、河辺は奥歯を噛み締めた。
「……ナツメさんはいつも、あんたと会ってたの?」
視線を外から河辺に向けて、和大が訊いた。河辺は和大を斜に見やった。
「エイジ、あれ出せ」
ヨシヤに言われて、ラインの入った坊主頭の男が、手にしていた袋から小さな瓶を二本取り出した。
一本いいぞ、と顎で示してエイジにそれを持たせ、ヨシヤはもう一本を受け取った。そしてその蓋を開け、何度かの深い呼吸と共にそれを吸い込む。はぁ、と息を吐いて、ヨシヤが僅かに焦点を失った目でゆるりとナツメに向き直った。
ヨシヤに言われて、ラインの入った坊主頭の男が、手にしていた袋から小さな瓶を二本取り出した。
一本いいぞ、と顎で示してエイジにそれを持たせ、ヨシヤはもう一本を受け取った。そしてその蓋を開け、何度かの深い呼吸と共にそれを吸い込む。はぁ、と息を吐いて、ヨシヤが僅かに焦点を失った目でゆるりとナツメに向き直った。
『――はい?』
数コール後、登録にない番号からの着信に警戒しているのだろう、和大が固い声で応答した。
「松田か。河辺だけど」
『河辺? T高の?』
「ん、そう」
『――何の用?』
「ナツメが拉致られたみたいなんだ。探すから手伝え」
『……、……分かった』
一瞬の絶句。和大の気持ちは痛い程分かる。ナツメの危機に、彼の側にいる事ができなかった己への歯がゆさ。それは河辺も同じだった。
数コール後、登録にない番号からの着信に警戒しているのだろう、和大が固い声で応答した。
「松田か。河辺だけど」
『河辺? T高の?』
「ん、そう」
『――何の用?』
「ナツメが拉致られたみたいなんだ。探すから手伝え」
『……、……分かった』
一瞬の絶句。和大の気持ちは痛い程分かる。ナツメの危機に、彼の側にいる事ができなかった己への歯がゆさ。それは河辺も同じだった。