「――はい」
『あっ、ショウちゃんやっぱり居留守使ってたわねっ』
電話の向こうからマスターの野太いオネェ言葉が届く。
「んー、何の用? 俺忙しんだけど」
『ナツメちゃんがちょっとヤバそうなのよ』
『あっ、ショウちゃんやっぱり居留守使ってたわねっ』
電話の向こうからマスターの野太いオネェ言葉が届く。
「んー、何の用? 俺忙しんだけど」
『ナツメちゃんがちょっとヤバそうなのよ』
※微妙ですが15禁くらいで(*´∀`)
「ヨシヤさん、そいつオトコじゃないすか」
運転する男がバックミラー越しにナツメを伺い見る。
「バカお前、今時どっちもヤれねぇでどうすんだよ。それにナツメはそこらのより全然『イイ』ぜ? 俺が済んだらヤらしてやるよ」
なぁナツメ? と耳元で息を吹き掛けながら囁かれ、髪が逆立つような気持ち悪さを堪えてヨシヤを睨み見た。
ヨシヤに言われて男はマジすか、ともう一度、ミラー越しにナツメを見てニヤリと笑った。
――ああ……。
何も考えられなかった。ただあの日、和大がナツメの部屋で選んだピアノの一音が、ナツメの耳に響いていた。
「ヨシヤさん、そいつオトコじゃないすか」
運転する男がバックミラー越しにナツメを伺い見る。
「バカお前、今時どっちもヤれねぇでどうすんだよ。それにナツメはそこらのより全然『イイ』ぜ? 俺が済んだらヤらしてやるよ」
なぁナツメ? と耳元で息を吹き掛けながら囁かれ、髪が逆立つような気持ち悪さを堪えてヨシヤを睨み見た。
ヨシヤに言われて男はマジすか、ともう一度、ミラー越しにナツメを見てニヤリと笑った。
――ああ……。
何も考えられなかった。ただあの日、和大がナツメの部屋で選んだピアノの一音が、ナツメの耳に響いていた。
ナツメは目の前の男をなんの感情も持たない目でじっと見た。
過去に数度、誘われるままに身体を繋いだことのある相手。そして、領域を破って伸ばされた手を拒めないナツメの性を知っている男の一人。名はヨシヤと言った。その誘い方は強引で、身勝手な行為はナツメにただ苦痛を強いるだけだった。
過去に数度、誘われるままに身体を繋いだことのある相手。そして、領域を破って伸ばされた手を拒めないナツメの性を知っている男の一人。名はヨシヤと言った。その誘い方は強引で、身勝手な行為はナツメにただ苦痛を強いるだけだった。
河辺を呼び出した三度とも、河辺はナツメを抱くことなくナツメを部屋に返した。
今までもナツメに決まった相手がいる時には河辺はナツメを抱くことはなかったのを知っていながら、それでも河辺を呼び出し続けたのはきっと、和大への罪悪感を少しでも小さなものにしたかったから。
和大には何も話していない。だから和大はきっと、ナツメが誰かと寝て帰ってきていると思っているだろう。結局それはナツメの中だけの、自己満足にも似た勝手な言い逃れでしかなかった。
今までもナツメに決まった相手がいる時には河辺はナツメを抱くことはなかったのを知っていながら、それでも河辺を呼び出し続けたのはきっと、和大への罪悪感を少しでも小さなものにしたかったから。
和大には何も話していない。だから和大はきっと、ナツメが誰かと寝て帰ってきていると思っているだろう。結局それはナツメの中だけの、自己満足にも似た勝手な言い逃れでしかなかった。
『ナツメお前、そろそろいいだろ?』
「――え」
『松田とヤる度俺呼ぶのも。俺にも……都合ってモノがあんだよ』
「……ん、だね。ごめん」
『松田にフラれたらまた慰めてやるよ』
カラダでな、と冗談口調で笑って、河辺は電話を切った。
「――え」
『松田とヤる度俺呼ぶのも。俺にも……都合ってモノがあんだよ』
「……ん、だね。ごめん」
『松田にフラれたらまた慰めてやるよ』
カラダでな、と冗談口調で笑って、河辺は電話を切った。
「ねぇナツメさん」
和大がナツメを覗き込む。その僅かに潤む瞳を見て、和大は目を細めた。
「キス、していい?」
「……ダメ、だ」
和大がナツメを覗き込む。その僅かに潤む瞳を見て、和大は目を細めた。
「キス、していい?」
「……ダメ、だ」
部屋に着く時刻を少しでも遅らせるかのように。普段はエレベーターを使う三階の自室までの道のりを、ナツメは階段を使ってゆっくりと歩いた。
自室のドアの前に立ち、携帯を開いて時刻を見る。廊下を照らす蛍光灯の薄い光の下で、眩しい程に光るディスプレイは〇時五二分を告げた。
自室のドアの前に立ち、携帯を開いて時刻を見る。廊下を照らす蛍光灯の薄い光の下で、眩しい程に光るディスプレイは〇時五二分を告げた。