そして、俺たちは。（２）

「ただいま」
「……おかえり」

　帰ってきた歩が寝室に入るなり、穿いていたジーンズをその場に脱ぎ落とした。ベルトの他に後ろポケットに突っ込まれていた財布と携帯がそのままで、ジーンズを脱いだだけとは思えない重い音が床に響く。

　歩は脱いだジーンズをそのまま床に残し、Ｔシャツを動線上に脱ぎ捨ててベッドに上がってきた。

　歩の脚が通っていた痕跡をはっきりと残したまま放置されたジーンズ。歩はあまり着ていた服を畳まない。だからよく床には歩が脱いだままの服が落ちているのだが、慎治は特に歩の痕跡を色濃く残すそれを最大の愛情を込めて『抜け殻』と呼んでいた。その歩の抜け殻に軽く視線を遣って、慎治は苦々しく、けれどもそれが愛しいと言わんばかりに笑って目を細めた。

　歩が慎治の上で四つ這いになって、慎治を見下ろす。

「お前……ズボンまた抜け殻んなってっぞ」
「ごめん」

　さして悪いとも思っていない調子で笑って謝って、歩はゆっくりと慎治の唇を塞いだ。

「ん……」

　続けて数度、互いの唇と舌を確かめ合い、離れていた時間をキスで満たす。このまま更にキスを重ねて穏やかな熱を互いに昂ぶらせ、行為に至る事も少なくはない。けれども今日は心が暖かく満たされたところで、ゆっくりと歩の唇が去って行った。歩に話したい事があるんだろう。歩は慎治を背後から抱き締めて、甘えるようにその額を慎治の項に預けた。

「歩、どうだった？」
「ん……？」
「メシ」
「旨かった。今度一緒に行こうよ」

　二人で、と囁くように慎治を誘い、歩は約束を取り付けるかのように慎治の項に口付けた。




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